大嫌いだったこの季節が待ち遠しくなったのは、くっついていられる口実が簡単に見つかる季節だからかもしれない。
並んで歩く、数センチ隣にある、大きな手。
そのわずかな距離でさえ、夏の間はなかなか、縮めることができなくて。
何気ないふり、こつん、と中指をぶつけて、そっと絡める指先。
意外に大きな彼の手の指先は、私の体温よりもわずかに低い。
「明里さん、どうしたの?」
出会った頃だって彼は十分私より大きかったのだけれど、最近更にまた大きくなったその背をかがめて、彼は私を覗きこむ。
どきりとしたけど、そんなの、白い息でごまかして、照れくささにへへ、と笑った。
「寒いから」
私の言葉に、雅也くんも笑う。にこ、と。
「でも、おれの手のほうが冷たいよ…?」
「そうかな?」
「うん」
「じゃあ、雅也くんの手が寒いから」
へんなの、と2人で白い息をいっぱい吐いて。
絡めた指先を手繰り寄せるみたいに、繋ぎなおして、ぎゅ、と握った。
でも、知っている。
寒いから、なんてそんな、こじ付けみたいな理由、本当はいらないってこと。
繋ぎたいといえばきっといつでも繋いでくれるだろうし、暑くたってなんだって、それはいつでも同じ。
それでも私は、何度だって繰り返してしまう。
「明里さん、どうしたの?」
「寒いから」
それは、私のめちゃくちゃな理由を笑う、あなたの暖かな笑顔が好きだから。
待ち遠しく、なったんだ。
寒い季節が。鼻先を少し赤らめて笑う、雅也くんの笑顔の温度が。
「…雅也くん、どうしたの?」
「寒いから」
公園のすみっこ、まるで隠れるみたいにきょろきょろしてから、ちゅ、と重ねられた唇に。
彼は私のまねをして、白い息の向こう、頬まで赤く染めて、笑っていた。
END