下らないことで、よくもまあこんな毎日もケンカできるもんだなあと、我ながら思う。
昨日は、ヒーターの灯油を入れにどっちが行くかで揉めてケンカになった。(結局私が入れた。玄関までだけど)
一昨日は要さんが毛布を独占したことでケンカになったし、その前は私のもっふもふのスリッパを要さんが履いていてケンカになった。
そして今日。

「だからさあ、なんで昨日のうちに気づかないわけ? 今日雪降るかもってさっき言ってたろ、ヨシズミが」
「だって! 日曜日に借りたと思ってたんだもん。だったら、返却だって明日までで大丈夫でしょ?」
「それ、結局勘違いじゃん。意味ねーじゃん! ったく、ちゃんと確認して、余裕持って返しに行けよ」
「いっ、いっつも寝坊してる要さんに言われたくないわ!」
「ぶほっ! 今ソレ関係ねえだろ!」

私の手には、ちょうど今日が返却期限のDVDが1枚。
借りてきたその日に見終わっていた(びっくりするほど面白くなかった)から、確かにもっと早く返しに行けた。
でも、なんだかんだでついつい後伸ばしにしていて、多分明日までだったから明日でいいかーと思っていた。
その勘違いに気づいた今はもう、夜の11時半。
外はきっと寒い。半端じゃなく寒い。

「あー…すっげえ行きたくねえんだけど。凍るぞマジ」

要さんのそんなぼやきを聞きながら、ああ、結局ものすごく寒い思いをして返しに行くことになっちゃったなあと、心の中でため息をつく。
寒いから、毎日毎日明日でいいか、って。
きっと明日はもっと暖かいだろうなんて、私の期待とは裏腹に、日に日に寒くなっていく今の季節。
腹をくくって、さっさと返しに行けばよかったんだ。

そんなことを考える私の正面、要さんがぐちぐち言い続けているからなんだか頭に来て、私は立ち上がりマフラーを手に取る。
(そんなに言わなくたっていいじゃない! 私だって後悔してるんだから!)
寒いのが大嫌いな要さんのご機嫌は、斜めを通り越して縦になってるんじゃないかと思う。

「いいです、私一人で行けますから! 迷惑かけませんから安心して寝ててください!」

悔しさに思わず捨て台詞を残して、勢い任せにマフラーを巻いた。
そしてどたどたとわざと音をたてて玄関に向かう。
一人で行けばいいんでしょ! とかかとをつぶして靴を履くと、急に視界が暗くなった。

「あのなあ」
「何ですか?! 一人で大丈夫です。寒くなんてないですから!」

なおも意地を張り続ける私の後ろ、要さんは盛大にため息をついて、そして私の頭を小突く。


「…寒い云々じゃなくて、こんな夜更けに、明里一人で出せるわけねえだろっつの」


結局。
要さんいわく凍るような夜道を、DVD1本のために、2人でとぼとぼ歩きながら。
帰りに肉まん1個おごれな、なんて要さんが不満そうに言って、でも冷え切った私の手を握るその手は、大きくて、とても暖かくて。
限りなく、優しいもんだから。

「ごめんなさい、ありがとう」

と、寒さのおかげ、私たちは仲直りをした。


ケンカの原因も、寒さだったこと。
奢らされた肉まんは、よりにもよって“極上!豚角煮まん”だったから、1日のレンタル延滞料なんて越えちゃってたこと。
なんだか腑に落ちないことはたくさんあるけれど、なんとなく幸せだから気にしないことにした。





END