私の手が暖かいと思ったことはないと、彼は言う。
私も、逆だけど、おんなじ。
彼と手を繋いだとき、彼の手を冷たいと思ったことは一度もない。
「明里の手、今日も冷てえなあ」
「要さんの手が、暖かいんじゃないですか?」
「そか?」
私の大好きな彼は、ほんとうにいつも、暖かな手をしている。
ポカポカ陽気の春も、焼けるような日差しの夏も。
今みたいに肌寒い秋にも、これからやってくる、凍えるような冬にも。
「何か、コツとかあるんですか?」
「は?」
「手を暖かくするコツ。これから、寒くなるじゃないですか」
要さんと手を繋ぐたびに、ああ、暖かいなあと思うように。
要さんも、たまには私の手を握って、暖かいなあと思ってくれたらいいのになあ。
これからどんどん寒くなって、冬になって。
私も、要さんが私の手を暖かくするように、要さんの手を暖かくできたらいいのになあ。
「あるよ、コツ」
要さんは、得意げに笑う。
手は暖かいけれど、鼻先だけは少し赤らめた、寒そうな表情で。
そして私の冷えた手をぐっと握って、自分のポケットにぐっと押し込んだ。
「…こうしとけば、いいんじゃね?」
全然、解決になってないなあと思ったけれど。
適わない、だって彼はこうやって、寒ささえも幸せに代えてしまうから。
恥ずかしさと嬉しさに、憎まれ口さえ出せなくなった私は、笑った。
幸せに、頬のゆるみを抑えられなくて、笑った。
END