最後まで残ってしまった大嫌いな化学の宿題をなんとか完成させると、長かったはずの夏休みはもう、終わりを迎えようとしていた。
気がつけば半そでもちょっと肌寒くなって、思う。
先輩と過ごせる、3度目の夏も、もう終わり。
夏の日差しが厳しい公園を2人で歩いたし、花火大会も一緒に行った。
遊園地のナイトパレードも並んで見たし、窓から吹き込む風に思わず目を細めながらドライブもした。
でも、1つだけ。
海に行こう、と彼は言ったのに、それだけ叶わないまま。
約束1つ、真夏の青空の中、ぽつり、と取り残されてしまった。
「おう、もう上がっていいぞー。お疲れ」
花々の色合いも変わったアンネリーの店内、鉢植えを動かしながら先輩は笑う。
この夏で、少し日に焼けた先輩はますます大きくなったような気がする。
「すみません、お疲れさまです」
「おまえ、明日っから学校だっけか?」
「はい」
「そっかー、宿題終わったか?」
「はい、なんとか」
「はは、良かったな。でも、そっか、月曜日におまえがここに来るのも今日までか」
夏休み中、週3回に増やしたバイト。
欲しいものがあるから、なんてごまかしたけど、ただ先輩に会える日を増やしたかっただけで、
来週からはまた、2回しか会えないと思うと寂しかった。
1ヶ月前、なんで週に2回だけで平気だったんだろう、なんて、不思議なくらいに。
「忙しくなるなあ。まあ、仕方ないけどな、高校生はオレと違って時間の融通きかないし」
先輩が、その大きな手で頭をかいた。
そして、小さく一言。
「…でも、寂しくなるなあ」
驚いてその顔をじっと見ると、困ったように笑うから。
私はつい、嬉しくなってしまうんだ。
「先輩」
「うん?」
「…海、行けなかったですね」
「…ああ」
「行きたかったです」
「ごめんな、実家に帰ってたら都合つかなくなっちまって」
「いつか、一緒に行ってくれますか?」
「もちろん。でも、来年、おまえもう、卒業してんだよなあ」
「それは…そうですけど」
「…来てくれるか?」
「え?」
「進学や就職でどっかに行っちまったとしても、誘ったらおまえ、来てくれる?」
「…はい、もちろん」
「そっか、良かった」
「先輩?」
「うん?」
「夏休み終わっても、月曜日、たまにはここ見に来てもいいですか?」
「おう、もちろん」
「月曜日じゃなくても、いいですか?」
「ああ、いつでも来い」
「いつでも、待ってる」
季節が変わって、私たちが少しずつ変わっても。
ずっと隣にいられたなら、大切なものを1つだって取り残したりはしないんだろう。
来年の夏も、一緒にいられますように。
アンネリーの隅っこ、夏に遅刻してしまった向日葵に、こっそり願ってみたりした。
END