夜空に、吐いた息が白く立ち上る。
星影の下、それはきらきらと輝いて、消える。
面白くて、ちょっと不思議で、何度もはあっと息を吐いた。

「何してんだ?さっきから」

小さな白のコンビニ袋を、ポケットに突っ込んだその手に握って。
隣を歩く真咲先輩は、ちょっと呆れ顔。

「息、白いなーと思って」
「当たり前だろ、こんだけ寒いんだから」
「白い息、明るいなーと思って」

真咲先輩は私の言葉に、ちょっと首を捻って、それからはあっと息を吐いた。
ゆらゆら、立ち上る白。
やっぱり輝いて、消えた。
「わ、なんか明るいかもしれねえ」、と。
真咲先輩はちょっと、驚いた顔をした。



キラキラ輝く白い息の下。夜の道を並んで歩く。
コンビニ袋には、肉まんと、あんまん。緑茶と、紅茶。
アパートに着いたらきっと、寒い寒いと文句を言いながらストーブをつけて、こたつにもぐりこむんだろう。
おまえの肉まん一口くれよ、なんて、私は言われて、しぶしぶそれを差し出すのかもしれない。
それは、いつもと変わらない、私たちの日常。
だって、劇的なことなんて、そうそう頻繁に起こるはずもない。

でも知っている。
何気ない、そんなことが全て、積み重なって、宝物になるということ。

だって、白い息が明るく輝く、なんて、そんな子どもじみた秘密を。
こうしてこっそり共有するみたいに、声をひそめて話すだけで、わくわくしてしまう。
私よりも高く、高く立ち上る息を吐く彼の横顔に、何度だって恋をしてしまう。

「あー、やっぱコロッケも買ってくればよかったな」
「やだよ、太るもん」
「またおまえはー。んなこと気にすんのか? 今更」

いつものやりとり、こぼれる幸せに頬が緩んで、照れ隠しに指先を暖めるふり、口元を手で覆った。
コートの下のちらりと見える袖口に、真咲先輩から借りた大きすぎるトレーナーが覗いて、顔が熱くなる。

「今更ってなんですか! ひどい!」
「まあいいじゃん。ちょっとくらい太っても」
「よくないですー」

恋人になって、初めて迎える季節。
だぼだぼの袖ごと、ぶっきらぼうに掴まれた手がぽかぽかする。

「だいたい、誰のために痩せんだよ。オレがいいって言ってんだからいーの」

私はきっと。
あなたをもっと、好きになる。







END