最近、俺たちは。
休日のたびに弁当を持って森林公園に行く。
そして、必ず食後に昼寝をする。

「春の陽気のせいよね」

彼女はそう言って笑う。
でも、本当は。
眠っているのは彼女だけで。
オレはまどろみの中で、たまに目を開いて。
微笑んだような顔で眠る彼女を見ている。

そして、例えば。
閉じられた瞼の下に影を落とす、まつげだったり。
無防備に落ちた、華奢な肩だったり。
うっすらと開く唇や、呼吸に上下する胸。

(…触ってみたい、なんて)

そんなことを考えている。



木に寄りかかるようにして。
眠っていた彼女の頭が、オレの肩に触れた。
鼓動はどんどん、早くなる。

『触ってみたい』

言ったら、こいつはどんな顔をするんだろう。
驚くだろうか。
照れるだろうか。
それとも、怒るだろうか。

もうずっと前から、我慢しているなんて。
気づいているのだろうか?
…気づいてないんだろうな。

触りたい。
全てに。
こいつの頬や手、もっと、もっと。
そしてずっと深い、心の奥まで。



(まあ、とりあえず。)



そう思って、手を繋ぐ。
彼女は小さく身じろぎをして、「…う…ん」と声を上げたけど。
起きなかった。
やっぱり静かに、寝息を立てたまま。

オレは目を閉じた。
このまま寝たら、先に起きるのは彼女だろうか。
起きたとき、この繋がった手を見て、彼女はどんな反応をするんだろう。
どうして?と聞くんだろうか。

(春の、陽気のせいだ。)

支離滅裂な、言い訳を繰り返し思い浮かべながら。
オレはゆっくりと、眠りに落ちる。
繋がった手は。
より一層鼓動を早めたけど、それ以上に。
落ち着くものなんだと、実感しながら。



春の木漏れ日の中、寄り添って、手を繋いで。



俺たちは、幸せなうたた寝をする。





END





お題サイト・リライト様の「組み込み課題・気持」の1つお借りして書きました。
お借りした組み込み課題:(…触ってみたい、なんて)