初めて、一緒にキャッチボールをしたとき。
私の手から離れたボールが、あまりにも見当違いな方向へ飛んでいくから、君は笑った。

「くくっ…すごいな」
「ど、どうすればいいのかな…」
「とりあえず、こっちに向かって投げてくれ」
「それは分かってる!」

何度放っても、ボールは志波くんのほうに向かってくれないから。
半べそをかきながら、届け、と願った。
隣を歩くよりも、ずっと離れたところにいる、君のところへ。
届け、と。



でも、どんなにめちゃくちゃな位置に放っても。
君は、私の大暴投を、笑って軽々と受け止めた。

「肩の使い方が悪い」

そんなことを言いながら。
志波んが優しく投げ返してくれるボールは、青空に、すごく綺麗な白の弧を描いた。
その、強さに、強さが生む優しさに。
憧れり、そして何よりも、すごくドキドキしたのを、今でもはっきりと覚えている。





あれから数年。
彼はまた少し、大きく強くなった気がする。
正に今、夢を掴でいるその手のひらから放られる白球は、相変わらず綺麗な、綺麗な弧を描く。

「上手くなったな」

志波くんは笑う。

「だって、これからプロになろうって人と、ずっとキャッチボールしてきたんもん」

私も、笑う。

出会って、好きになって、大好きになって、懸命に近づけてきた君との距離は。
まるで、ボールのやりとりみたいだったと思う。
最初はへたくそで、思うように投げられなくて。
でも今、はこんなにも、真っ直ぐに、ボールを投げられる。
君に、届くように。
君に向かって、一直線に。

「ずっと、応援してるよ」

今までも、これからも。
夢を掴んだ、その先も。

「…ずっと、見てるよ」

私の手から離れたボールは、君の手の中に、吸い込まれるように。
弧を描いて、動きを止めた。

「ああ、ありがとう」

ボールを握った君は、空を仰いだ。
眩しい日差しに、目を少し、細めながら。

「ずっと、傍にいる。ずっと、」

君は言いながら、ボールを放る。
強い肩で。
私に受け止められる、優しい、速度で。


「ずっと、愛してる」


あの時も、今も、これからも。
きっと私は、君に憧れる。何度も何度も、鼓動を早くするのだろう。



君の放った白球は、青空に軌跡を残して。



私の手のひらに、幸せを届けた。






END