席替えのくじのボックスから、引き当てた数字が、「4」で不吉な数字だとか。
その「4」が窓際の真ん中辺で、一番先生と目が合いやすい(つまり指されやすい)席だとか、
午後から日が当たる席だから、眠くなって大変そうだなとか。
そんなことはもう、どうでもいい(いやいやそれも、十分大きな問題だけれど)というか、なんというか、
どうでもよくなってしまうほど、大きな大きなことが、この「4」の数字には隠されていた。
「あ、隣、おまえか」
そう、隣の席、だ。
私の隣の席にぎいぎいと音をたてながら、面倒くさそうに机を移動してきた、“彼”。
“しば、かつみ”、くん。
くじの数字より、席の場所より、私の心を大きく動かした。
「しば、くん。あ…えっと、ここ、なんだね」
「ああ。3番。長嶋だな」
「長嶋?」
「ああ、超有名球団の終身名誉監督…って、分からないか」
「あ、分かる、分かるよ」
さっきから、どきどき、どきどき。心臓がうるさい。
だって、彼が「3」の数字を引いたのを机を移動する前から知っていたのも、
野球に全く興味のない私が終身名誉監督の長嶋さんを知っているのも、全部、全部。
私が彼を、好きだからだ。
私が彼に、片思いをしているからだ。
「あの、しばくん」
「ん?」
「よろしく、ね」
彼は口角を少しだけ上げて、ああ、と言った。(彼は笑ったんだ、多分)
私はもう、うまく話せなくて、手も震えて、まるで腰を抜かしたようにストンと椅子に座った。
これから、毎日、どうしよう。
忘れ物はしないようにしなきゃ。
居眠りしないようにしなきゃ。手の指の毛は抜いておかなきゃ。爪も、きれいにしておかなきゃ。
そわそわと、まだ慣れない机に当たる窓からの光を見ながら考えていた。
少しでも、仲良く慣れたらいいなって。
そうだ、もっと、もっと。
野球のことを勉強して、ちょっとはお話できるようにならなくちゃ。
ちらりと、横目で彼を見る。
志波くんは、クラスでも人気者のハリーくんに話かけられていた。
「おまえ、超ラッキーじゃねえ?」
「…針谷、うるせえぞ」
「なんだよ、照れやがって〜。嬉しいくせに」
2人のやりとりに、首をかしげて。
前に向き直ろうかと思うと、ハリーくんと目が合った。
「あ、おまえ」
「え、あ、なに?」
「こいつ、志波勝己っつーの。無愛想だけど、よろしくしてやってくれな」
「え、あ、うん。…あの、ハリーくんも、よろしくね」
「あ、おう! よろしく!」
やっぱり、よく分からなかったけど。
にへらっと笑って、私はまた机に当たる温かな光をそっと、眺めた。
今日は小春日和。
学生の一大イベント、席替え。
引いたくじは「4」番、窓際のちょうど真ん中の席。
アンラッキー、でも、隣に大好きな人がいれば、これ以上にないほど、ラッキー。
どうやって、仲良くなろうか。
私はずっと、そっと、ドキドキしながら考えていた。
END(志波も、デイジーと隣になれてラッキーで、ハリーにからかわれてたのでした。)