待つことが、どれだけ辛いことか。
探すことが、どれだけ大変なことか。
そして、再会できることが、どれだけの奇跡の積み重ねか。
―俺は、知ってるから。
【再会の誓い】
「珪くん、おはよう!偶然だね〜」
朝の登校時間、俺はよく、偶然を装ってサエに会う。
俺より少し早起きなサエに合わせて起きて。
ちょうど俺たちの通学路がぶつかるところの、ちょっと手前で少し待って。
サエが見えたら、俺より少し歩調の遅いサエの後を追いかけ、声をかける。
するとサエはいつも、言うんだ。
偶然だね、と。
そして俺は答える。
「…そうだな」
2人で歩く通学路は、少し眠くても、学校が億劫でも、楽しいんだ。
サエは、「珪くん、寝てる?」なんて言うけど、そんなわけないだろ。
サエの声が心地よくて、サエの笑顔が眩しくて、うまく目が開かない…だけだ。
「ねえねえ珪くん、今日晴れてよかったね!」
いつもにましてご機嫌なサエは、きらきらと光る太陽の下で微笑む。
……かわいい…。
「ん? そうだな…今日…」
なんかあるのか?
聞こうと思ったところで、サエがちょうど声をあげる。「七夕だよ!」
「あぁ…そうだったか」
頭の奥から無理矢理日付を引っ張り出す。
7月7日…そうか、七夕か。
「晴れなかったら、織り姫と彦星は再会できないもんね。1年に1回しか会えないのに」
青々とした空を見上げて、サエが呟く。
1年に1回…か。
俺だったら…耐えられない、な。
そう考えてた時。
「でも、私だったら…1年に1回じゃ、寂しいかなぁ」
お前がそう、言うから…鼓動が少し早くなった。
「ね、珪くん。珪くんが彦星だったらどうする?1年にたった1回の時間」
どう過ごす?サエは無邪気に、俺に問いかける。
そうだな。俺が、彦星なら…
「……俺が彦星なら…離れない」
「えっ?」
「せっかく、会えたんだ。……二度と離れない」
そう呟くと、サエは目を丸くした。
「もしかしたら、この先ずっと、7月7日は雨かもしれない。そしたら…会えないだろ、織り姫に」
待つことが、どれだけ辛いことか。
探すことが、どれだけ大変なことか。
そして、再会できることが、どれだけの奇跡の積み重ねか。
―俺は、知ってるから。
「珪、くん?」
気が付くと、サエは少し心配そうな顔をして、俺を見上げている。
その表情に、俺は少しだけ微笑んで見せた。
「…ほら、行くぞ。遅刻する」
角を曲がれば、もう学校だ。
サエと一緒に登校する日は…いつも、思う。
この道が、どこまでも続けばいい…。
「…珪くん」
少し歩調を緩めた俺を、サエが振り返る。
「私が織り姫だったら、一生懸命、丈夫な橋をつくるよ」
「…え?」
「雨の日も、風の日も、もちろん晴れの日だって、いつでも2人が会えるように」
「…珪くんみたいな彦星が、1人で無理しないように」
その言葉に、俺が立ち止まっていると。
遅刻しちゃう!そう、サエが俺の腕を引いてくれた。
せっかく、会えたんだ。
…織り姫と彦星みたいに。
だから。
サエが作ってくれた橋を渡って…
俺はサエを、二度と離さない。
そう、思った。
END
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