なあ、これは。
なんの我慢大会なんだ?
【無防備な、君の】
ずっと、遠い存在だと思ってた。
歳が。
立場が。
そして、心の距離が。
由真とオレとでは離れてるんじゃないかって、そう思っていた。
けれど。
今、オレの部屋には。
幸せそうに寝息をたてて。
うっすら微笑みを浮かべて。
無防備に眠る、由真の姿。
(満腹…なんだろうな。あんだけ食ってたもんな)
由真が高校を卒業して、初めてオレの部屋に来て。
(ったく…ちょっとは警戒しろっつーの)
オレの料理を食って、幸せそうに眠っている。
(やべえぞ、オレ)
正直に話そう。
由真がまだ高校生のときから。
オレの頭の中は煩悩でいっぱいだった。
一度だけ触れたことのある唇。
ふにふにしてそうな頬。
ちっさい手。
白い肌。
すらっとした手足。
そしてなんといっても、とろけるような笑顔。
―触れたくて、抱きしめたくて―
オレだって最初は、後輩だって自分に言い聞かせた。
好きになる相手じゃない。
恋愛する相手じゃない。
でも。
好きなんだ。
どうしても。
大好きなんだ。
自覚したら、後はもう。
ダメだ。
なんっつーか…もう、ダメなんだ、そんときから。
(あー…触りてぇ…)
なんだろな、なんでこういう日に限って、ミニとか履いてんのかな?
背中もでっかく開いてるし。
やわらかそうな真っ白い肌が、むき出し。
(…落ち着け、元春…)
なあ、これは。
なんの我慢大会なのかな?
こんな状態で、我慢できる男の方が少ないだろ。
(オレだって例外じゃねぇぞ)
…キスくらい。
そう思って、顔を近づける。
(初めてじゃねえし)
あと20cm。
(付き合ってる…わけだし)
10cm。
(オレは由真を、好きなんだ…)
数cm…
「ダメだ!!」
無理!!
無理、絶対無理!!
いざ近くで顔を見ると。
長いまつげ。
ピンクの唇。
かわいい、大好きな由真の顔。
(キスで終わるわけねぇだろ…オレ…)
頭をぶんぶん振って、洗面台に向かう。
そして、顔をごしごし洗って。
押し入れから力任せに布団を引っ張り出す。
(頼むよ…本当に…)
由真に布団をかけながら。
オレはこの先に頭を思い悩ませた。
(ずっと…この我慢大会は続くのか?)
由真と付き合う限り、ずっと…?
無防備な由真に目をやると。
やっぱり幸せそうな、寝顔。
(あーあ…人の気も知らねえで…)
ため息は当分出ずっぱりだろうけど。
(無防備なこの姿を、裏切るわけにはいかねぇよな…)
そう思って、台所へ向かう。
起きた彼女が喜ぶような、甘いお菓子を作りに。
お返しに、甘いキスを期待しているのは。
やっぱりナイショの話だけどな。
END
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