自分以外の誰かと一緒にいたい、なんて。
初めて思った。



この思いが叶うなんて、思わなかった。






【…冗談?】






灯台を降りて。
2人で浜辺を歩く。

昨日まで、散々迷って繋ぎあぐねていた小さな手は。
今、オレの手の中にしっかりと収まっている。

「歩くの、早くないか?」
「うん、大丈夫」
「早いときは言え。…身長差があるんだ」
「うん、分かった」

いつもは喋るのに。
さっきから会話は続かなくて、ただ黙ってゆっくり歩くだけ。
でも、それでも心地いい。
一緒の空間にいることが、幸せで穏やかで、心地いい。



「夢、みたい…」

隣で、思い出したかのように。
風のように呟く声が聞こえる。

「…うん?」
「両思い、なんだよね…なんだか夢みたい」

ずっと片思いだと思ってたから、と。
オレを見上げて微笑む顔。
…そんな顔されちゃ、な。
我慢、きかないぞ?

「夢じゃない」
「…本当に?」
「あぁ…夢じゃない。夢だったら、オレが困る」
「うん…でも、だから夢みたい」
「…実感、できないか?」
「うーん…イマイチ。だって…志波くん、いつも”冗談”って言うんだもん」

少し首をかしげて。
はにかんで、風に舞う髪の毛をおさえる。

「…今回は、そんなこと言わない」
「本当?」
「あぁ…絶対」
「んー…本当かなぁ」
「なら、目、閉じろ」
「え?」
「目、閉じろ」

ゆっくりと。
降りてくるまぶた。
そして、影を落とす長いまつげ。

オレは、そっと。
小さな頭の後ろに手を添えて。
腰を、かがめて。



唇を、近づける。



「……鈍感…」

まずは小さく、1回。

「冗談、ってのが冗談」

2回。

「まだ分からないか?」

…3回。

「…分かれよ」

最後は、顔を傾けて…4回。






「ずっと、本気だった」






「お前が好きで…本気だった。もちろん、今も」






鼻の頭が触れるほど近くにある顔。
真っ赤。
多分、オレも。



「これからは、冗談じゃなくて、風邪でもなんでもうつせよ……夢じゃねぇから」



照れ隠しに、抱き寄せると。
腕の中の小さなお前が、顔を埋めるのが分かる。

「・・・分かった・・・夢じゃなくて良かったぁ・・・本当に・・・」

やっぱり風のように、小さく呟きながら。



でも、本当は、オレの方が夢みたいで。



まだ足りない、ともう一度唇を寄せた。





END





>おしいれ
>Back to HOME