話してみたら、触れたくなった。
手を繋いだら、キスしたくなった。
ならば。
キスしたら……?
【言えないこと】
屋根にあたる雨の音が、遠くの方で聞こえる。
部屋の中は少しひんやりしているけれど、体は妙に熱い。
さっきから、視界は黒く暗転したり、白く光を吸い込んだり。
いまだに迷っている。
キス、を、しているとき。
目を開いて、を見ているのがいいのか。
それとも、目を閉じて、を感じているのがいいのか。
初めてキスをした日から、多くの時間を一緒に過ごして、
それこそ、数え切れないほど唇を合わせてきたのに。
次第に赤く色づく頬や目を見逃すのも惜しいし。
でも、唇を合わせたときの、あのオレたちの境界が溶けそうな感覚とか、
舌先に感じるの味。そして、香り。
少しでも、感じそこねるのももったいなくて。
結局どっちつかずで、
色んなものを取り損ねる。
だからオレは、繰り返す。
何度も、何度も、の口を軽く噛んで。
全てを感じ取ろうと、全神経を集中させる。
キスをすればするほど、足りなくなるんだ。
キスをするたび、感じ損ねたものは無数に増えてる気がする。
まだ。もっと。
キスをしていたくて、彼女の全てを感じたくて。
歯止めがきかなくなる。
「……し、志波くん、苦しい」
の言葉に、唇だけそっと離して。
変わりに、額を合わせた。
キスをやめても、隙間が開き過ぎないように。
「悪い。大丈夫か?」
「大丈夫、だけど……」
あわせた額に、かすかなぬくもりを感じる。
オレの体温よりも、の体温のほうが高いらしい。
「……そんなに好きなの?」
「何がだ?」
「……キス」
「ああ、好きだ。でも、むしろ、」
「え?」
「お前が、好きだ」
「が、好きだ」
彼女の額が、もっと熱くなった。
それを感じたオレの鼓動は、速度を速める。
の呼吸が、落ち着いたのを確認して。
またオレは、キスをはじめた。
やっぱり、目を閉じたり、開いたりしながら。
でも、いつまでたっても。
満たされるときは、絶対に訪れなくて。
全部欲しい、そう思ったけど。
の頭に添えたオレの手に、振動を感じて。
まだ、キスで震える彼女には、
言ってはいけないこと、そう思った。
「……苦しいよ」
「もう少し」
話してみたら、触れたくなった。
手を繋いだら、キスしたくなった。
ならば。
キスしたら……?
答えは、とっくに分かっていたけど。
オレはその言葉を飲み込むように。
震える彼女を、なだめるように。
できる限り、優しく。
丁寧に、キスを続けた。
まだ。
まだまだ、足りなかった。
END
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※【海の底の静かな合図】の志波編です。
志波くんは優しいですが、欲望だってちゃんとあるはず。デート後会話のキスについて、結構激しかった(?!)ですよね。
あんまり私の話ではうまく書けてませんが、欲張りな志波くんもすごく好きです。
そして何と言っても、エンディングのキスシルエット。
志波の手が、デイジーの後頭部に添えられているのがもんのすごい好きです。
抱きしめるよりも、肩をつかむよりも、後頭部を支えるが好きです。あれは素晴らしい。