例えば、ブラックコーヒーに一滴だけ落とすミルクのように。
綺麗に片付けられた台所の、洗い立ての真っ白な皿のように。
今までの自分にはなかったもの。
新しくて、くすぐったくて。
でも、とても温かで幸せな、照れくさい感情。
【07 白い肌】
指先で、つまんだりはじいたり。
たまには手のひらでさすってみたり、ちょっと力を入れて握ってみたり。
口づけも、忘れない。
とにかく目に付いた場所全てに、色んな方法で触れてみる。
感じるのは、オレより少し低い君の温度と、ふわふわの柔らかさ。
君は、どうしてこんなに甘いんだろうと思う。
鼻先をくすぐる香りも、口づけた先に感じる味も。
溶け合う体温や、たまにとろんと開く瞼から除く視線、漏れる、声。
甘くて、甘くて。
オレはいつだて、胸焼けを起こしそうな、そんな感覚。
…じゃ、なくて。
胸を焦がしそうな、そんな、恋心。
そんな、幸せ。
こういうこと、聞かれるのを君があんまり好きじゃない、って、そんなことは知っているけど。
好きな子にはイジワルしたいって、よく言うじゃん?
オレも、そういうタイプ。
だって、見たいって思っちゃう。
笑った顔や、穏やかな顔だけじゃなく、困った顔も、泣き顔も、ちょっとやらしい、そんな顔だって。
明里ちゃんの上、その表情が綺麗に歪むのを、眺めながら。
調子に乗ったオレは、その耳元に口を寄せる。
「ねえ、オレとこうするの、好き?」
白い肌は、みるみるうちに赤く染まる。
満たされる瞬間。
オレの焦がれた胸の色が、まるで明里ちゃんの中に入ったみたいで。
明里ちゃんだけじゃない、オレも、甘く、柔らかくなれた気がして。
「…祥行さん、いじわる」
君が、オレだけの君なんだって、そんなことを。
何をしているときよりも、深く、強く、感じることができるから。
でも、抱きしめたその小さな体から、絞り出すように、絶え絶えに。
――こうするのが、じゃなくて、どちらかというと、よしゆきさんが、すき、です。
聞こえてきた言葉に、ああ、幸せだなあって。
大好きだなあ、ずっと、ずっと一緒にいたいなあって。
「…オレ、も、だよ」
幸せのかけら、こぼれたオレの汗は、君の白い肌に落ちる。
オレの一言で色を変える、甘い、かわいい君の肌に。
交わるたびに、生まれていく。
例えば、ブラックコーヒーに一滴だけ落とすミルクのように。
綺麗に片付けられた台所の、洗い立ての真っ白な皿のように。
今までの自分にはなかったもの。
新しくて、くすぐったくて。
でも、とても温かで幸せな、照れくさい感情。
キスをしたら、溢れたのは。
あいしてる、という、感情。
END
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