恋愛は、きれいなものだと思っていた。

そう、例えば俺が主役を演じる恋愛ドラマのように。
絶好のシチュエーションで、好きだとか愛してるとか言えばいい。
女が泣いていたら抱きしめればいいし、笑っていたら小さくキスを落とせばいい。
誕生日には流行のアクセサリー、クリスマスにはブランドものの服。
女が喜びそうな場所を選んで、渡せばいい。

たまには修羅場だってあるだろうけど。
でも、それだって恋愛のスパイスだ。
どんな状況で、どんな行動をすれば盛り上がるか。
考えて、動けばいい。
ダメだと思ったらやめちまえばいい。

恋愛は、ドラマだ。
…そう思っていた。

けれど、そんなものは所詮「恋愛ごっこ」にすぎないんだと、明里を好きになって実感した。
本物の恋愛は、きれいじゃない。
もっと、必死でかっこ悪いものなんだ。





【11 自分の愚かさを愛してみよう】





ゴージャスの店内。
俺はある一角から、目が離せない。
「なあ…アレはなんなんだ?」
微笑んで、酒を作って。
顔をのぞき込んで、手に触れて。
「ああ、新人ですよ。ヘルプに入ってもらってるんです」
隣のホストが答える。
「…ムカツクなぁ〜」
「し、仕方がないですよ、ここはホストクラブで、彼はヘルプですから」

ヘルプ?
そんなの知ったこっちゃない。
明里は俺の彼女だろ?
勝手に見るんじゃねえよ。
勝手に触るな。



隙を見て引っ張ってきた裏口。
「きゃっ…か、要さ…じゃなかった、九神さん?」
明里が小さく悲鳴を上げる。

「要でいいよ」
「か、要さん、どうしたんですか?」
「どうした、じゃねえだろ。すげえムカツク」
「え?」
「あいつ。ヘルプ」

なんでお前に触るわけ?
そう口をとがらせると、明里はぷっと吹き出す。

「なんですか?や、ヤキモチ…?」
「そうだよ、悪いかよ」
「悪くないですけど、しょうがないですよ、ここはホストクラブですから」

明里は笑いながら、さっきのホストと同じ事を言う。



あー、もう。
めちゃくちゃ腹が立つ。
なんでそんなに明里は余裕なんだ?笑い事じゃねえだろ。
ホストクラブだろうがなんだろうが、明里は俺の女なんだ。
外野なんて関係ねえ…っつーか、考える余裕もねえんだ、俺は。
好きで。好きで好きで好きで。
明里しか目に入らない。
明里のことしか考えられない。

「要さ……っん?!」

今は収録中。
しかも、お世辞にも綺麗とは言えないゴージャスの裏口なのに。
俺は無意識のうちに、明里を抱き寄せて唇を塞ぐ。
途端に濃くなる、明里の匂い。
頭の芯は一気に強く痺れて、俺は何かにとりつかれたように深く口付ける。

「っはあ……ちょ、ちょっと、ここどこだと思ってるんですか?!撮影中なのに…」
「知らねえよ」
「知らないって…もうちょっと時と場所を選びましょうよ…」
「無理。…見えねえんだよ、もう。明里しか見えてない」

きっと、明里の目にはビックリするくらい情けない顔をした俺が映っているだろうな。
嫉妬、独占欲…そんなものにまみれた、情けない顔。
その顔をさらけ出しておいて、明里に嫌われるのが怖くて。
俺はまた、明里に口付ける。
見なくていい。
見なくていいから…感じて欲しい。

何度も。
何度も何度もキスを繰り返して、やっとの事で明里を解放する。
少しよろけて壁にもたれかかった明里は、目を潤ませて、頬を紅潮させていた。

「悪い。苦しかったー…よな?」
「…はい、すごく」
「ごめん」

好きな女ができたら、優しく、甘く。
奪うんじゃなくて包むみたいに愛すもんだと、ずっと思っていた。
でも、無理だ。
俺は最初から、きれいな恋愛なんてできない。
本気で好きになった瞬間から、もう本能でしか動けない人間なんだ。

「明里、こんな俺、嫌か?」
「え…?」
「嫉妬して、周りが見えなくなって」

情けないと思いつつも、俺はすがるような気持ちで明里を抱きしめる。
その小さくて、折れそうな体を、力一杯。

「こんな情けない俺、嫌いになるか…?」

耳元でそう呟くと、明里がふっと笑う気配を感じた。
そして、何か言いたそうに身じろぎする。
俺は少しだけ腕の力を弱めた。

「…そんなわけないじゃないですか」
「え?」
「そりゃ、ちょっと恥ずかしいけど…嬉しいですよ?」

明里はにこりと微笑む。

「要さんの必死さが、痛いほど伝わってきて…私、幸せですよ?」

明里はそう言って、俺の背中にぎゅうぎゅう抱きつく。
ああ、なんかもう。

「んな殺し文句言って…どうなっても知らねえぞ?」
「…ふふ、望むところです」

なんかもう、本当に愛おしくてたまらない。
もうこうなったら、本能のままに突き進んじまおうか?
こんなに必死で、情けなくて愚かな俺さえも、明里は笑って受け止めてくれるから。



いっそのこと、俺も、自分の愚かさを愛してみようか?



END




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