それは。
俺が持つ全ての、愛情の塊みたいなもので。





【12 真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ】






例えば。
上手く笑えないなと思ったら、明里の眉間を思い出す。

明里の眉間は、すべすべしている。
眉毛なんか一本も生えてなくて、それはそれは綺麗な眉間だ。
…が、ちょっと広いんだよな。
眉と眉の間が、離れ気味。
だから、明里の顔は、ちょっととぼけた感じなんだ。

すべすべして綺麗だけど。
ちょっと笑える、明里の眉間。



例えば。
上手く喜べないなと思ったら、明里の指を思い出す。

明里の指は、細くて頼りない。
どの指の爪も形がいいけど、薬指の爪は特に形がいい。
あの指には、魔法がかかってると思うんだよな。
明里の指先からから生まれる料理や、服。
信じられないほど俺にしっくり馴染むんだ。

細くて頼りないけど。
ごくごく自然な喜びを作り出す、明里の指。



例えば。
上手く怒れないと思ったら、明里の胸を思い出す。

明里の胸は、この世で一番とろとろだ。
本当に、わずかに触れただけで、すぐに形を変える胸。
俺は大好きなんだけど、触ろうとするとすぐに逃げるんだよな。
もちろん俺は、この手に収められるまで、意地になって追っかけまわす。
意外に逃げ足が早いから、ついムキになっちまうんだ。

とろとろで、だけどすぐには捕まらない。
俺を怒らせるのが得意な、明里の胸。



例えば。
上手く泣けないと思ったら、明里のうなじを思い出す。

明里のうなじには、産毛がいっぱい生えている。
なんだか少しあどけない、輪郭が曖昧なうなじ。
ケンカをすると、明里は俺に背中を向けるんだ。
だから俺は、いつももどかしい気持ちでそこを見る。
どうすれば、こっちを向いてくれるのか、それだけを考えて。

産毛で輪郭が曖昧な。
切ない形の、明里のうなじ。



俺の喜怒哀楽の全ては、明里でできている。



食事をしてても、寝てても、歩いてても、走ってても。
何をしていても…例えば、演技の一挙一動でさえ。
全部、明里でできている。
俺の行動や感情、言葉や表情、全て。
真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ、明里に向かう。





「あぁー、あったま痛ぇ…飲みすぎで胃も痛ぇ…」
「だから言ったじゃないですか!今日から新婚旅行だって知ってて、どうしてそういう…」
「だってよ、昨日は、『明里は俺のもんだ!』って、見せびらかす日だろ?気分いーじゃん」
「……はい、薬」
「サンキュ!って、なんだよ、その冷ややかな視線。最近冷たくねえ?」
「要さんがバカなこと言うからです」
「んだよ。いいじゃん、体調悪いしんだしさー、優しくしてくれよ」
「嫌です……その薬の半分、優しさらしいですよ。薬に優しくしてもらって下さい」
「へぇ、優しさって、成分なのか?……半分、半分は優しさ……」



「…綾織要の全部は、明里でできている………」



「……バカ?」
「ちょっ、ばーか!尊い一直線の愛情だっつーの」
「ふうん」
「ふうんって!やっぱ冷てぇよ、明里ちゃーん…」





…………





「ちょっと要さん!飛行機の中で膝枕はやめて下さい!」
「…ちぇっ」
「……ちぇって言いながら、ちゃっかり居座るのもやめて下さい」






END





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※明里ちゃんの怒りの8割は、炎樹の愛でできている。
 たまには(?)ちょっと気を抜いたアホ路線を。シチュは、結婚式&披露宴→翌日新婚旅行のパターンです。
 半分は優しさ、ネタ古いですね。もしかして、知らない方いらっしゃいますかね…?
 でも冗談じゃなく、炎樹の全ては明里ちゃんで埋まってるだろうな、というお話。(そうですか?)