…PPP PPP PPP……

『あいよ』
「…要さん?」
『おー、明里。どした?』
「…あ、あの」
『ん?なんだよ』
「…」





【13 ずっとずっと捻くれていろ】





『明里?聞こえてるか?』
「…あ、はい。すみません」
『あ、聞こえてるか。なんか、少し声遠いな。やっぱダメだな、国際電話』
「ふふ、そうですね」
『な。もうちょい改善の余地あるよな』

『…で、どうした?なんかあったのか?』
「あ、はい…その、ド、ドライバー!どこにしまったか忘れちゃって…」
『ドライバー?』
「はい。リビングのドアの取っ手、少し緩んじゃって…」
『あぁ、ネジ締めるやつな。確か、玄関の靴入れてる棚の上の方にねぇ?』
「玄関の靴入ってる棚の上の方、ですね」
『そう。前に俺使ったとき、そっち入れたと思う。見てみ?』
「はい。ちょっと移動しますね…あ、今、時間大丈夫ですか?」
『あぁ、大丈夫。休憩中だから』
「すみません、急に電話しちゃって…」

………。

「ありました!よかったぁ…」
『お、やっぱり?よかったよかった』
「じゃ、すみませんでした、本当に」
『…えっ?』
「はい?」
『用事ってこんだけ?』
「あ、はい…」
『ははっ、なんだよ。せっかく、ひ”…ーい、炎樹くん!そろそろお願……”
「…休憩、終わりですか?」
『あ、ああ。悪い。そんじゃ切るな』

プッ…

「……」

プーッ プーッ プーッ

「……しょうがないのよ…忙しいんだもん…」





…PPP PPP PPP…





「もしもし?明里?」
『はい…要さん?』
「おー、さっき悪かったな。今撮影終わった」
『いえ、ちゃんとドライバー見つかったし、大丈夫ですよ。撮影、お疲れさまです』
「…そっか」
『………要さん?』
「ん?」
『どうかしました?』
「や?なんで?」
『なんか、声が元気なさそうだったから』
「はは、んなことねーよ?」
『ならいいんですけど…』

「…っつーか、元気ないのは明里の方だろ?」
『えっ?』
「…くてかけてき……じゃねぇの?」
『…えっ?す、すみません、ちょっと聞こえないです!』
「デ・ン・ワ!寂しくてかけてきたんじゃねぇの?!なんかあったか?!」
『ち、違いますよ!何にもないです!』
「本当か?」
『本当ですよ!私はすごく元気です!』
「…本当、か?」
『本当です!今日なんて、薫と一緒にケーキバイキング行って、食べ過ぎちゃいました』
「マジで?どんくらい食ったの?」
『10個くらい…』
「へぇー」
『本当は15個ですけど』
「ぶほっ!そりゃ食ったなぁ!」
『でしょ?すごく元気ですよ!私』

『じゃあ、そろそろ切りますね!』
「おう、ゆっくり寝ろよ」
『はい、要さんも、ゆっくり休んで下さいね!』
「あぁ、サンキュ。いい夢見ろよ…あ、俺以外の男の夢、見るなよ!俺の夢、な」
『あはは、分かってます。それじゃ、お休みなさい!』
「おやすみ」

プッ…

「……ウソつけ」

プーッ プーッ プーッ

「あっち、今何時だよ。こんな明け方に、ドライバー…か?あんなに不自然なハイテンションで?」

…。
……。
………。

「そろそろ、いいか…」





…PPP PPP PPP…





『もしもし』
「…か、要さん?どうしたんですか?なにか言い忘れ…」
『泣いてんだろ?』
「え?」
『明里、そろそろ泣いてんだろ?』
「そ!そんなこと」
『鼻声』
「ち、違います!」
『ウソつけ』
「ち、違うも…」
『分かるよ』





『明里のことなら、なんでも分かる』





「…
ずっ……」
『ほら、やっぱり泣いてんじゃねぇか』
「泣いて…
ずっ……いもっ…ん」
『ばぁか。バレバレだっつの』
「………
ずっ……泣いてません…っ!」
『……』
「……
ひっ…」
『……本当に?』
「…ほんとう…です…!」
『へぇ。じゃあ俺の思い違いか』
「………
ずっ…」
『へぇー。じゃ、いいや。ずっとずっと捻くれてろ』
「……」
『じゃな』

「あっ…」





プッ……





「ふ……
うっく……要さ…」

…PPP PPP PPP…

『もしもし』
「…要さ…」
『意地はんなっての』
「……
ぅーずっ…」
『腕時計、そっちの時間のままなんだぜ?』
「……
ずっ……」
『明け方に、日曜大工する奴がどこにいる?』
「……
ひっ…」
『っていうか、時計なんてあってもなくてもな』
「………
ずっ…」
『ずっと明里のこと考えてんだからよ』

『お前の様子がおかしいとかそういうの、すぐ分かるんだからな』

『…無理すんな。泣きたいならちゃんと、俺の声が聞こえるところで泣いてくれよ』
「…っく……」
『分かったか?』
「……ずっ…わかりま…ひっ…た」

『よしよし、オッケー。…あー』
「…ひっ…なめさん?」
『会いてぇ…』
「……ずっ…」
『すっげぇ会いてぇ』



『会って抱きしめてぇ…今すぐに』



『なぁ明里、今からそっち行くから』
「…ええっ?だ、ダメですよ!」
『なんで?いいじゃん』
「お、おお、お仕事!ちゃんとやらなきゃ」
『明里のが大事』
「そ、そんな…」
『決まってんだろ?明里のが大事。明里優先』
「そそ、そんな!ダメですよ…迷惑かかっちゃう…」
『どうにかなんだろ』
「な、ならないと思う…」
『なる』
「ならないです!」



『…じゃあ、明里が来て?』



「…はっ?!」
『金、俺の部屋の引き出しに入ってっから。それでチケットとって来て』
「で、でも…」
『なんだよ、なんか問題あんのか?』
「な、ないですけど…私邪魔…」
『邪魔じゃねぇよ』
「……」
『来るのか?来ねぇのか?来ねぇんだったら、俺行くぞ』
「そ、そんな…」
『捻くれてねえで、本能で動いちまえよ。ホラ、どうする?』
「……」
『……』





「行く…」







……………。







「要さん?く、空港着きました」
『おう、分かった。今どの辺?俺、到着ロビーの辺りにいんだけど…』
「え、じゃあ近く…」
『お、見えた!あ、もうちょい左!そうそう、その辺の、ニット帽かぶってる…』



「あっ、要さん!」

「明里!」





「「…会いたかった」」





END






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※国際電話なんて使ってもいないくせに、「改善の余地ある」なんて言わせちゃってすみません。
 電話でひねくれると、収集がつかなくなります。正に、ずっとずっと捻くれているって感じで…。