今まで僕は、1番になることにしか興味がなかったけど。
キミと付き合うようになって、変わったんだよ?

キミの瞳の中の自分、がね。

どううつっているのか、気になってたまらないんだ。





【05 瞳の中の自分】





昔から、よく言われたことだ。
「ナルシスト」とか、そういうこと。
言われるたびに、最もだと思っていたよ。

だってそうだろう?
自分に興味がない奴なんていないじゃないか。

決めたことは、曲げない。
自分に妥協はしたくない。

だから、僕は自分を甘やかさない。
そして、自分の価値は自分で決める。



でも。



「仁、ごめんなさい、棚の上、手が届かなくて…」
「OK、姫。取って差し上げよう」

キミを好きになってから、キミの瞳に、僕はどううつっているのか。
それが気になってたまらないんだ。

キミにとって、僕の価値はどのくらい?





夕飯のテーブル。
僕はキミがつくった料理を目の前に、キミといつものように向かい合わせに座っている。
「キミもだいぶ料理がうまくなったね。おいしいよ」
「…よかったぁ、そう言ってもらえるとすごく安心するわ…」
「姫のつくったものなら、なんでもおいしいけどね。最近更に腕を上げたみたいだ」
食べながら微笑むと、キミは少し目をそらしてはにかむ。

そうやって、今みたいに。

一緒に暮らすようになったのに。
キミはいつまでたっても僕に慣れない。
僕の…視線や唇。肌や、体温。
キミに向けると、すぐに真っ赤になってうつむいてしまう。
…とても、かわいいのだけれどね。
最近、それが少しもどかしい。
もっと。
もっと胸を張って、しっかり受け止めて欲しいんだ。

僕が、どれだけキミを愛しているかということ。

一通り食べ終わって、片づけに立とうとするキミを引き止める。
「明里くん」
「なぁに?」
「ちょっと、僕の方をじっと見てみてはくれないか?」
「…え?」
「何もしなくていい。僕もなにもしない。だから、とにかく僕の目をじっと見て欲しいんだ」
「えっ?どうしたのよ、仁」
「いいから。さ、見て」
「…う、うん…」
僕の願いを聞き入れたキミは、静かに、静かに僕の瞳を覗き始める。
やっぱり少し赤くなりながら…そっと。



静かな空間で、ただひたすら見つめ合う。

言葉を尽くして。
気持ちのままに、肌を重ねて。
今までそうして、懸命に思いを伝えてきたつもりだ。
キミを、見つめてきたつもりだ。

だから今。
こうして見つめ合って、今度はキミの思いが知りたい。
キミの瞳の中の自分を、見たい。

「じ、仁…もういいでしょ?恥ずかしいわ…」
「ダメだね。まだ足りない。まだ見終わっていないよ」
「な、なにを見てる…の?」
「僕だよ」
「えっ?」
「キミにうつる、僕を見ている」
「…?」
「正直、未だに自信がない。キミに思いを伝え切れているのか、キミにとって僕はどれだけの存在なのか」
「…仁…」
「思いが大きすぎて、伝えきれる自信がないんだ」

泳ぐ視線を、追って、捉えて。
僕はキミにうつる僕の姿を見る。
その瞳は、どこまでも澄んでいて。
そこにははっきり、僕の姿が映し出される。

「…仁の思いは伝わっているわ」
「本当かい?」
「本当よ。仁はきっと、私を一番愛してくれている…と思っているわ」

キミは、震える視線で僕の瞳を懸命に捉える。
…やっぱり、足りない。
まだ。
まだキミが、足りない。
キミに思いを伝えたりない。

「”きっと”?」
「うん…きっと…」
「”きっと”、じゃない」
「え?」
「”確実”に、だよ」

なんだかとてももどかしくて。
「じ…んっ!」
僕はテーブル越しにキミの唇を奪う。
思いを込めて。
必死に、懸命に。

「ダメだよ姫、目は開けて」
「…え…っ?」
「見ていて…僕を。目を開いて、ずっと見ていてくれないか」
「じ、仁…」
「僕を」



わかったわ、というか細いつぶやきを聞いてから。
僕は姫を持ち上げて、ベットルームへ向かう。

何度も、何度もきつく抱きしめて。
名前を呼んで。
キミの瞳をのぞき込んで、僕は確かめる。

「愛しているよ…とても」

ねえ、キミの瞳に、僕はどう映る?
キミにとって、僕の価値はどれだけのもの?



気になって、気になってたまらないことは。



「仁…だいすき…」



果てる前にキミの口から漏れた言葉で、少しだけ、分かった気がした。

意識が遠のく中、かろうじて開かれたキミの瞳に、うつった僕は。



―世界一幸せそうな顔をしていた―







END







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