昨晩、あんなことやこんなことをしたオレたちは。
生まれたままの姿に、シーツを巻きつけた姿で、ベットの中。



真っ白な朝を迎える。





【09 キスマーク】





まぶたの向こうに光を感じる。
懐かしいその感覚に、オレは急いで目を開く。

ああ、よかった…夢じゃない。

窓の外は、明るく青く、きらきら輝いていて。
オレの隣には、すうすうと寝息をたてる明里ちゃん。

彼女の首の、赤いキスマーク…オレがつけた。
そっとなでたら、顔がにやけた。
もう、この目で。
彼女につけたオレのしるしを、確かめられる。
鮮やかな赤を、目でたどることができる。

こみ上げる幸せは留まることなく。
オレの口元から零れて、微笑みに変わる。



昨晩の明里ちゃんとオレは。
まるで、“初めて”のときみたいだった。



…ってたとえはおかしいかな。
アホだったオレの“初めて”は。
相手の名前も、声も覚えていない。
頭に残っているのは、毒々しい部屋の照明と、香水のきつい臭い。

あんなんじゃないな。
昨日のそれは、すごく優しい色をしていた。
優しくて、熱くて。
柔らかくて、綺麗で、いい匂いがして、いやらしくて。
すごく激しくて、でも穏やかで。

…なにより、幸せで。

見えなくても忘れまいと頭に刻んだ記憶は、やっぱり少しずれていた。
頭の中のそれよりも、彼女はずっと綺麗で。
笑ったり、泣いたり、感じたり、その表情はどれも見事で、
何度も反った体のアーチは、息をのむほどだった。

今までに詰め込んできた、ありったけの大切なものを確認するような、そんな夜。

初めてのとき「みたい」じゃなくて、本当に、初めてだったんだと思う。
彼女の全てが、新鮮で、綺麗で、愛おしくて。
こんなに幸せを感じた夜は、初めてだった。

もう一度、君を見ることができてよかった。
心の底から、そう思った。





朝の日差しに包まれて。
オレの胸に、鼻をつけるようにして眠る明里ちゃんを見た。
昨日はあんなに赤かったのに、素肌は透き通るように白い。
シーツに、溶けるんじゃないかと思うほど。

日に照らされて、茶色に透ける髪を撫でる。
眠りに落ちる直前は、汗でしっとり湿っていたのに。
今はさらさらと、オレの指の隙間を流れていく。

そのまま、そっと抱き寄せると。
つむじが見えた。
そこにキスを落とすと、明里ちゃんはわずかに身をよじった。
まるで、猫のように。
自分の居場所を探るように身をよじって、オレにぴったりくっついた。



しばらくそのまま、眠る彼女を抱いていたら。



オレはまた、昨日の続きをしたくなった。
優しくて、熱くて。
柔らかくて、綺麗で、いい匂いがして、いやらしくて。
すごく激しくて、でも穏やかで。
なにより、幸せで。
あの詰め込んだ大切な、色とりどりのものたちを、もう一度、確かめたくなった。

少し腕を緩めて、体を下にずらす。
明里ちゃんの白い首筋に鼻を寄せてから、そっと口をつけた。

シーツと明里ちゃんの白。
外の空の青。
髪の毛の茶色や、唇のピンク。
そして、オレがつけた、キスマークの赤。

たどるようにして、探した。
オレも、猫になって。オレの居場所を。



「ん…よしゆき…さん?」
「おはよう、明里ちゃん」



確かな色の中、透明に輝く明里ちゃんの声を聞いた。
その声は、耳から体に、しっくりなじんで。

「ね、もう一回……しよ?」

オレは、またたくさんの赤をつける。
自分の居場所を、確認するように。
幸せを、色に託して刻むように。



やがてまた、明里ちゃんの体が、綺麗に反って。



世界は何度も、色を変えた。





END





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※見えるようになって、初めて迎えた朝。
 描写はしていないんでOKかと思うんですが、年齢制限は必要でしょうか…。