夢と現実の間は、無限に広がっている。
この時間には、終わりがないような。
この空間は、どこまでも続いているような。

本当は一瞬なのに。

君がいてくれるから…感じるのは、果てしない、幸せ。





【04 抱き寄せて】





朝、ベットの中。
外で鳥が鳴いている気がする。
まぶたの向こう側は、なんとなく白い。

ああ、今日は晴れているのかもしれない。
店の裏に溜まっっちゃった洗濯物、今日なら一気に片付くかなぁ。
今日なら、言ってもそんなに怒られないかもしれない。
起きたら、明里ちゃんにお願いしよう。



でも、もう少しだけ。
あと5分だけ。
この心地よい瞬間を、味わっていたい。



まどろみの中で、思い浮かべているのは。
「もう!悟さん、また寝坊して」
そう言って眉を吊り上げる、明里ちゃんの顔。

このままじゃ今日もまた、あの顔を見ちゃうかもしれない。
だって、夢に片足だけ突っ込んだままの、この瞬間。
気持ちよくて、癖になる。
一人なら、こんな心地よい感覚に身を委ねてる場合じゃないけれど。
今、僕には明里ちゃんがいるから。

明里ちゃんを怒らせちゃうのは、やっぱりダメなことなのかもしれないけど。
でも、そんな顔も、実はかなり好き。
眉を上げて、頬を少しだけ膨らませて、口先を尖らせて。
怒ると瞬きが増える癖も、知ってしまったその日から愛おしくてたまらない。



だから、あとちょっと。
あと数分でいいから。
まだ、このままで、もう少し。



(…さむい……。)

夢と現実の間で、僕は無意識に辺りを手で探る。
いつの間にか、むき出しになっていた体。
どおりで寒いはずだ。
かけていた毛布、どこへいったんだろう。

(…あ、あった)

指先にあたった毛布を、つまんで引っ張る。
でも、なぜかそれは動かない。

「…んん……」

変わりに聞こえたのは、唸り声。
あれ、僕、寝言言った?
自分の寝言で目が覚めるなんて、すごく間抜けな話だけど。

思わず、目を開く。
すると、目に飛び込んできたのは。

「…すみません、あと少し…」

そう呟いて毛布の中に身を丸める、明里ちゃん。
いつもは早起きの彼女が、どうしてここにいるんだろう。
ぼやけた思考をたどって、思い出す。

…ああ、そうか、今日は店の定休日だ。

無防備な明里ちゃんの姿に、思わず、笑みを漏らす。



いつもは見ることのない彼女の寝顔を、じっと眺める。
下がった眉、頬にかかる髪、小さく開いた口から漏らす寝息。
彼女は今、あの心地いいところにいるのだろうか。

夢と現実の間に。

僕は目を開いてしまったけど。
でも、彼女のかわいい寝顔を見ていると、僕もまだあの瞬間にいるみたいな気持ちになって、幸せだな。
それに。
彼女のこんな顔を知ってしまったら、もう寝坊ばかりはしていられないかもしれない。
怒った顔も、大好きだけど。
この顔もまた、かわいくてたまらない。



ふわふわの、まるでメレンゲのような頬に、すいよせられるようにして小さくキスを落とす。
くすぐったそうに、明里ちゃんは身をよじる。
それに、寒そうだ。
必死に毛布を体に巻きつける仕草は、まるで小さい頃に友達の家で見た子犬みたい。

僕はそっと、その毛布にくるまれた体を抱き寄せて。
まぶたの裏に、明里ちゃんの寝顔を焼き付けて。

もう一度、目を閉じた。

いつも、一人で味わってしまうあの幸せを。
今なら、君と一緒に感じられるかもしれない。



起きたら一緒に洗濯をしよう。
たまには、こんな休日の過ごし方もいいでしょ?



果てしない、だけど本当はとても短い、贅沢な朝寝坊。
僕の大好きな時間を、僕の大好きな君とともに。





END





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