そういうところが、たまらなく可愛いと思う。
【不機嫌をきざむ、足の親指】
飯も風呂も終わって、あとはもう寝るだけの時間。
明里と二人でソファに座って、今日から始まった連ドラを見ている。
我ながら、こってこての恋愛ドラマだなーと思う。
我ながら、というのは、まあ、俺が主演だからなわけなんだけど。
「……この前までやってたのの方が、面白かった」
膝と黄緑色のクッションを前に抱えて、明里がボソッと呟いた。
いかにも“退屈です”といった感じに、足の親指をもじもじさせてんのが可愛い。
「あ、やっぱり?」
「うん。なんか、一昔前のドラマみたい」
このところ、俺は途切れなく何かしらのドラマに出てていて、明里のこんな批評はもう定例になっている。
初回は、どっちかが忙しくない限りこんな風に並んで見て、面白いとか面白くないとか言い合ったりして。
「うーん、何がダメ?」
「なんか先が読めちゃう気がする」
「んじゃ、明里の予想だと、どんなんなる?」
「要さんがやってる役の人が、この同僚の人のこと好きになるんでしょ?」
「うんうん、そいで?」
「で、この、要さんの妹の友達ってのが、要さんのことを好きになる」
「うん」
「で、要さんの大学時代の友達が、妹の友達を好きになって、みんなが片思い状態」
「ナルホド」
「最後には、主役同士がくっついて、脇役同士がなんとなくいい感じになるの」
明里は、目の前のココアに口をつけて、
そして、ため息混じりにもう一度言う。「つまらない」
その様子を見て、俺はこみ上げてくる幸せな笑いを必死に噛み殺した。
だって。
本当は分かってるんだ。
明里はいつも、俺が出る恋愛ドラマを見ると、決まったように同じことを言うから。
「つまらない。だって、一昔前のドラマみたい」
そして、見終わった後。
興味がなさそうにテレビの前を立って、洗い物なんかを片付けて。
その間に俺は先にベットに入ってるけど、間もなく明里も俺の隣に入って丸まって、そして必ず。
あの、少し不満そうな顔のままで、小さくキスをせがむ。
あの瞬間、めちゃくちゃ可愛いと思う。
「……要さん」
「うん?」
「……」
キスして、なんて言わないところとか。
目つぶったり、身体をくっつけたり、上目遣いをしたり、そんなことは1つもせずに。
俺の小指をきゅっと握る、俺の手よりずっと小さい華奢な手が、たまらなく可愛いと思う。
なあ、明里。
明里はつまんないって言うけど、そんなドラマに限って視聴率は好調なんだぜ?
明里がつまんないのは。
俺が、他の女と恋愛してる演技をしてるからなんじゃねえの……?
でも、それはあえて聞かない。
そんなこと言ったら、あの幸せな笑いとキスがなくなっちまうから。
「あー、明里……すっげえ可愛い」
今日もまた、小さな小さなキスをして明里を抱き寄せた。
明里は相変わらず、不満そうに眉を寄せていたけれど。
俺はすげえ、幸せだった。
嫉妬が愛おしいから。
ドラマを一緒に見ることが少し楽しいのは、俺だけの秘密。
END
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