【1月1日、元旦】



1月1日。
今日は、私と要さんにとって、初めてアメリカでお正月を迎える日。

「悪いな、明里。正月くらいあっちに帰りたかったよな」
「いいんです、せっかく要さんのお仕事も軌道に乗ってきたところですし」
「でもよ、やっぱ正月といえば日本だろ。あっちでおせちとか食いたくねえ?」
「まぁ、それは…でも、こっちで過ごすお正月初めてですし。これはこれで」

年末から要さんはどうにかして日程調整をして日本に帰れるように頑張っていたみたいだけど、うまくいかなかったみたいで。
さっきからずっと残念そうな声を上げているところを見ると、彼自身もあっちに帰りたかったみたいだ。
私自身も、今年は少し寂しいお正月になりそうという思いが頭を掠めた。
けれど、こっちにきたときにそんなことは覚悟していたことだし。
そう思って、私は笑顔を作って要さんに声をかけた。

「要さん、元気出しましょうよ!こうして1日でも休み取れてよかったじゃないですか!」
「まぁな〜、それはよかったけどよ…」
「何か気がかりなことでもあるんですか?」
「あるっちゃある。ないっちゃない」
「??」

うつむいて、何か考え事をしている要さんは、ぼそぼそと何かを呟いている。
「なんですか?」と聞いてみると、彼はゆっくりと顔を上げて、私をマジマジと見る。

「ど、どうかしました?」
「…きもの…」
「はっ?」
「着物、着たかった。そして、明里にも着せたかった」

き、着物…?
そんなに着たかったの…?
彼の言葉に首をひねりながら、

「あの、こっちでも貸衣装屋さんに頼めばどうにかなるんじゃ…?」

私はそう返事を返した。
すると、要さんの目が見る見るうちに大きく見開かれ、顔中が笑顔に変わっていく。

「そうか!!そうだよな、どうにかなるよな!」
「は、はあ」
「おし、電話だ。確かこの前の映画のときに…」

そう言って、要さんはさっさと立ち上がり、アドレス帳をぱらぱらやり始めた。
さすがに突然過ぎないかと色々声をかけたけど、彼の耳には届いていないようだった。



1時間後。
玄関のチャイムに私が扉を開けると、

「Hello!」

という威勢のいい声とともに、割腹のいい髭面のおじさんがなにやら大きなダンボールを抱えて立っていた。

「おう、ボビー!持ってきてくれたのか?」
「モチロンさ!ほれ、これだ」

ボビーというらしい人は大きな声で笑いながら何かを要さんと話し(何を言ってるのか全く分からなかった)、
「君が要のガールフレンドだね!!あはは、よろしく、お嬢さん!」
というようなことを(もっと豪快な言い方で)私に告げると、その大きなダンボール箱をどっかりと置いてまるで嵐のように去ってしまった。

「要さん、今の方は…?」
「ボビーだ!いい奴だろ」
「は、はぁ…」

私は首をかしげて要さんを見上げる。
彼はさもご機嫌そうに頷きながら笑っていた。
そして、

「よし、じゃあ始めるぞ!」

というと、そのダンボールをあけて、次々と中のものを取り出していった。



「あの、要さん、これは…」

広げられたものを見て、私は言葉を失った。

「明里、俺、餅つきをしようと思う」

得意げにそう言い切った要さんの前には、臼と杵と炊飯器、そして着物。

「あの、着物を着たくて貸衣装屋さんに電話したんじゃ…」
「そうだよ?でもさ、夜まで暇じゃん。だから、それまで餅つきでもしようかと思って」
「…夜?!」
「ああ、着物は夜だろ。他に何のために着るんだよ」
「ちょっ、要さん?!」
「着物で餅つきもいいけど、結構きついと思うし」

要さんの言葉に、私は呆れながらただ目の前のものと彼の顔を見比べる。
そして、そんな私をお構いなしに、要さんは炊飯器のふたを開ける。
そこには、つやつやと輝く炊き立てのもち米。

「なんだ、炊けてんじゃん、さすがボビー、気が利くぜ。おっし、始めるぞ!」

そう言って要さんは満足げに笑い、杵を楽しげに持ち上げ始めた。
なんで、私は貸衣装なんて言っちゃったんだろう。
自分の言動を思い出すと…なんだか、ふと、ため息がこぼれた。



どうやら。



寂しいと思ってたお正月は。
昼の餅つきと、夜の着物。
こうして、体力勝負に、あわただしく、過ぎていく…らしい。





END





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※おバカな話ですみません。