口数の少なかった、おとなしい彼女は。

ちょっとだけおしゃべりになった。






【音の鳴る方へ】






「祥行さん! こんにちは!」

彼女の声とともに、病室の扉が開く。
走ったのかな? 息づかいが少しだけ荒い。

「明里ちゃん? 今日は早いね」
「は、はい! えっ、と! コンビニに新しい中華まんが並んでて、それで一緒に食べようと思って買ってき……げほっ!」
「あはは、だーいじょぶ? それで急いで来てくれたんだね。ありがと、嬉しいなぁ」

手元にあった椅子をたたいて座るよう促すと、「ありがとうございます」という元気な返事とともに、彼女の気配がオレの側まで動いた。

「えーっと、確かこの辺りにミネラルウォーターが……」

すぐ脇の棚を探ると、彼女の手がオレの手に重なって、「ここです」と誘導してくれる。

「あ、ありがと。はい、それ飲んで、ちょっと落ち着いて」
「あ……えへへ、すみません。いただきます」

少しだけ静かになって。
部屋にはタプリ、というペットボトルの中のミネラルウォーターの音が響いた。

「あ!」

彼女の素っ頓狂な声に、ん?と返事をすると。
彼女はえっと、えっとですね、と明らかに慌てた声を上げた。
脳裏に彼女の真っ赤な顔が鮮明に浮かび、オレは彼女に気づかれないよう笑いをかみ殺す。

「その……すみません、思いっきり間接キスしちゃいました……コップ、あるの気づかなくて」

なんでかなぁ、このお姫様は。
そんなかわいいことばかり言われると、抱きしめて離したくなくなる。
分かってるのかな?

「ひゃっ、よ、祥行さん、ここ病室!」

探るようにして抱きしめた彼女は、とても柔らかい。

「明里ちゃんがかわいすぎるからだよ」
「よっ、祥行さ、」

オレのキスに、右手で触れていた彼女の顔が熱くなる。

「明里ちゃん、顔、熱い」
「だって……」

気がつかなかったよ、目が見えなくなるまでは。
こんなふうに、君を感じられること。
こんなにも君が、全身でオレに反応していてくれるということ。

「そうだ! よ、祥行さん、中華まん! 中華まん食べましょう!」
「あはは、そうだね。ありがと」

彼女の焦った声に笑うと、彼女はもう……と袋をがさごそやりだした。
まだほのかに暖かい包みが俺の手の中に収まって、2人で同じものをほおばる。
幸せだな。
うん、オレ、すごい幸せ。



ふと、静かな病室に彼女の鼻歌が響く。
最近の彼女の癖だ……俺を安心させるための。
明里ちゃん、ありがとね。
オレを独りにする沈黙を、壊すためなんでしょ?

光のない俺に、君は一生懸命その存在を示しながら。
君はオレに道標をくれるんだ。

この道標の先に、絶対に光があると信じてるから。
頑張るよ。
いつかまた……いや、すぐにでも。
君の姿をもう一度見たいんだ。



君が、大好きだよ。





end





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