顔が好み。
目とか、口とか、鼻とか、パーツの一つ一つがとってもきれい。
あ、全身を見ても、やっぱりきれいよ?
無駄のない筋肉のついた身体とか、スラッとした長い手足とか。
アンバランスなところなんて、一つもない。
本当にきれい。ほんとうにかっこいい。
性格だって好き。
さばさばしてるし、面白いし。
たまにひどいこと言うけど、そんなところも好き。
飾りっ気のないところ、大好き。
きっと炎樹は、丁寧に、丁寧に作られた、神様の最高傑作。
炎樹ほど完璧な人を、あたしは他に知らない。
きっと。
どうなっても好き。
何があっても、好き。
【邪魔なあたしと、素敵な彼】
なのに。
「炎樹ー!」
「おわっ…おい、乗っかんな」
「だってー、炎樹全然かまってくれないんだもん」
「あのさ、今は明里ちゃんの時間。お前自分の席に戻れよ」
「ぶー」
つれない炎樹。
いつから?
いつからそんなにあたしのことうっとおしくするようになったっけ?
あたしは炎樹のこと好きで。
炎樹だって、あたしのこと好きだって言ってたのに。
…昔は、だけど。
負けないぞぉ、と炎樹の袖をつかもうとしたところで、鈴原さんがやってきた。
「理沙さん、こんにちは」
「あ、マネージャーさん、こんにちはぁ」
「ちょっといいかしら」
「えぇ〜?理沙、今炎樹と…」
「いいから」
まるで野良猫のように。
あたしは炎樹のマネージャーさんにボックス席からつまみ出される。
…なによ。
まるで、理沙が邪魔みたいじゃない。
ここはホストクラブでしょ?
明里さんって人より、理沙のが全然上客なのに。
っていうか、理沙は炎樹のこと、大好きなのに。
「もうっ!なによ〜」
無理矢理座らされたカウンター席。
炎樹に会いに来たのに、なんでこの人と並んで座ってなきゃいけないわけ?
「理沙さん、ここから炎樹見てごらんなさい…なにか分からない?」
「え〜??」
思いっきり不機嫌を声に出してから、くるっと椅子を回転させて、炎樹を見る。
なにかって…今日もかっこいいけど?
髪の毛さらさらで、スーツも似合ってるし、なんといってもあの笑顔…あの、笑顔?
…なに?あの笑顔。
「気がついたかしら」
ウソみたい。
あんなに、あんなに柔らかい視線で誰かを見るなんて。
いつもと…あたしに向ける笑顔と、全然違う。
かっこいい、完璧な炎樹の姿と違う。
怯えたような、けれど安心したような、宝物を見るような顔。
スーツがちょっと、アンバランス。
―炎樹じゃないみたい。
「…だって。」
絞り出したあたしの声は、情けないほどかすれてる。
「だってあの人は永久指名の人で、ここでの恋人の人だから。
炎樹、俳優だもん。あのくらい、演技でどうにだって…。
だって!だってね、炎樹、理沙のこと好きだって言ったもん。理沙のこと、好きだって…」
認めたくなくて必死に紡いだ言葉は、力なく宙を舞いはらはらと落ちてきた。
分かるよ…分かっちゃうよ。
だって、あたし、炎樹を好きなんだもん。
何があっても―大好きなんだもん。
炎樹のこと、ちゃんと見てるもん。
「だって…理沙、理沙がっ!炎樹のこと、すっ…好きだも…っ」
喉の奥がきゅっと締まって。
顔中が熱くなった。
なんだか、しょっぱい。
「好きなんだから、しょうがないじゃん…っ」
ホントはね。
気づいてた。
あの人だけ、違うって。
あの人だけ、特別だって。
きっと、炎樹の時間は、全部あの人のものなんだ。
指名なんかじゃ、どうにもならない。
でも。
それでも好きなんだから、しょうがないじゃん。
「理沙さん…」
激しく泣きじゃくるあたしに、マネージャーさんがためらいがちに声をかける。
なによ?
もういいでしょ。
つきまとわなきゃいいんでしょ?
理沙が。
理沙が邪魔なんでしょ?!
「…わかったわよ!もう来ない!仕事以外で、もう会わない!それで…それでいいんでしょ…っ!」
勢いに任せて立ち上がる。
一瞬で店内が静かになった。
カウンターの中から、心配そうな水無月さんの、理沙を呼ぶ声がする。
邪魔な私と、素敵な彼の物語は。
もうここで、おしまい。
……………………。
「おい、鈴原」
静寂を破ったのは、分からないはずもない、大好きな炎樹の声。
「理沙になに言ったか知んねぇけど。こいつは俺の大事なダチだから。あんま勝手なことしねぇでくれな」
…え?
「おい、理沙、待たせたな。今度はお前の時間。オラ、さっさと席戻れ」
炎樹はあたしの髪の毛をくいくいって引っ張る。
あたしの…時間?
大事な…ダチ?
「炎樹…?」
「んー?」
炎樹が少しめんどくさそうに振り返る。
周りの人はためらいがちにこっちを見てたけど、あっという間にいつものゴージャスに戻る。
「理沙、邪魔じゃないの?」
「はぁ?そりゃ、ちょっとうぜぇときあるけど。けど、それが理沙だろ?ダチだと思ってるぜ。
ホレ、さっさと席戻る!時間ねぇんだからさ」
炎樹はずんずんと進み、理沙の席にどっかりと座った。
「えーんじゅ!」
「なんだよ」
「えへへー、理沙ね、炎樹のことすっごい好き」
「そうかよ」
「も〜、それだけ?理沙すっごいもてるんだよ?」
「ハイハイ」
「…ぶ〜」
絶対に炎樹は、丁寧に、丁寧に作られた、神様の最高傑作。
炎樹ほど完璧な人を、あたしは他に知らない。
きっと。
どうなっても好き。
何があっても、好き。
――友達でも、好き。大好きだよ、炎樹――
ちょっとだけ切ないけど。
邪魔なあたしと素敵な彼の物語は、少しずつ形を変えながら。
どうやら続いていく…みたい?
END
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※理沙ちゃん、好きなんですよ〜!
きっと、ひよこの刷り込みみたいに炎樹のこと大好きなんだろうなぁって思います。
ゲーム中では、明里ちゃんにメール送って2人を応援しますよね。その直前…っていうイメージなんですが、
あんまり深く考えてないので、つじつまが合わないかもしれません…すみません(笑)
読んで下さってありがとうございました。