あうんの呼吸、とか。
つーといえばかー、とか。
そう言えば聞こえは良いけど、でもね?
最近の、要さんの態度。
それが、悩みの原因に…
…なってないわけじゃ、ない。
【15 腕の中(1)】
冬になって、寒くなって。
私と要さんが暮らす部屋にも、コタツが登場した。
「床暖房入ってるし、いらないんじゃない?」
私はそう言ったけど、頑なに首を振ったのは要さん。
「何言ってんだよー、日本人はコタツだろ!」
…ここはアメリカですけど?
突っ込もうかと思ったけど、やめた。
だって、私もコタツが恋しかったから。
フローリングに、カーペットを敷いて。
その上にコタツ用の絨毯なんかを重ねて、日本から持ってきたコタツを置いた。
アメリカの、思いっきり洋室の部屋には似合わないんじゃないかと思ったけど、これが意外で。
最近では日本でも洋室にコタツを置くし、見慣れたその風景に違和感はなかった。
コタツの上には、もちろんみかんをおいて。
お茶を入れれば、セッティング完了。
わくわくしながら入ってみると、足先からぽかぽかして暖かい。
エアコンとか、ヒーターなんかとはまた違う。
「うおー、コレだよ、コレ」
要さんはコタツにかけている毛布を首の辺りまでとっぷりかぶって、幸せそう。
アメリカに来て始めての冬、思っていたより暖かく過ごせそうだなあなんて、私もニコニコしていた。
でも、この幸せが、問題だった。
コタツは確かに暖かいけど。
…一度入ると、出たくなくなるのよね。
そのおかげで、コタツの周りにはどうしてもモノが溜まる(掃除するのは私だし)。
それに、どちらかが一度出てしまうと。
「悪い、お茶入れて」
なんて、いいように使われちゃう。
“立ってる者は親でも使え”なんて言葉があるけど。
家事やなんかで立ってることの多い私にとっては、この言葉はちょっと不都合。
使われっぱなしになっちゃうから。
これに加えて、要さんがコタツに入って、大好きなゲームのスイッチをオンにしちゃうと。
「あかりー」
言葉まで少なくなって、こっちも向かないまま、名前だけを呼ぶ。
最近では、その仕草やタイミングで私も何が欲しいのか分かるようになっちゃって。
「…要さん、ずるい」
そうこっそり呟くけど、ゲームに熱中してる要さんは気づかない。
私の機嫌は、隅っこの台所でどんどん積み重なっていた。
はっきり不満を言えないまま、今日もそれは続く。
「あかりー」
その声に、私は夕飯の準備の手を止めて要さんを見る。
お茶がないみたい。
私はお茶を入れて要さんの前に置いた。
「はい」
「さんきゅー」
しばらくすると、また。
「あかりー」
そう言って、要さんは雑誌のラックを指差す。
私はそのラックのところまで行き、彼のよく読む雑誌をとって、要さんに手渡す。
「もう、たまには自分で取ってください」
少し不機嫌に、そう口にしてみるけど。
「悪い悪い、さんきゅー」
要さんは私の言葉を気にも留めず、コタツにとっぷりつかったまま。
そしてその後も、何回も。
同じことが繰り返された。
台所で冷たいお肉を切りながら、私はつい考える。
私って、要さんの家政婦だっけ?
「あかりー」って呼ぶとなんでも持ってくる、ロボットかなにか?
コタツを出す前までは、要さんだって自分のことくらい自分でしてた。
特に、こっちにきて一緒に生活を始めた春なんて、料理をしてくれることだってあったのに。
『一緒にいるのに、違うことするなんてもったいねーじゃん』
そう言った事だってあったよね。
なのに、最近では、私よりもコタツと一緒にいる時間の方が多い。
私だって、寒いのに。
私だって、忙しいのに。
なんだか私は、どんどんイライラしてきてしまって。
もう、使われてやらないんだから。
そう思って、台所から見える、要さんの背中をこっそりにらんだ。
そして、数十分後。
「あかりー」
私は台所から動かない。
炒め物に熱中するフリをして、だんまりを決め込んだ。
すると、しばらくしてまた同じ声。
「あーかーりー」
ちらりと横目で見ると、どうやらソファの後ろに落ちてしまったリモコンを取ってほしいらしい。
要さんのほうが、近いじゃない。
更にイライラして、私は返事も返さない。
「あーかーりーってば」
要さんは、私の反応がないからどんどん声を大きくする。
負けてたまるか…と思ったけど。
あまりにもしつこく彼が名前を呼び続けるから。
「もう!リモコンなら自分で取ってください!」
要さんより大きな声で、私は怒鳴った。
驚いた彼が振り返った雰囲気を、私は背中で感じていた。
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