…樫宮くんは、いつだって……。
【12 繋ぎとめて(1)】
少し騒がしい居酒屋の、大部屋。
その、端と端の席。
私と樫宮くんは、高校の同窓会に来ている。
「ハイ、じゃあグラスを持って!」
中心にいる幹事の言葉で、みんなが一斉にグラスを手にする。
「「かんぱーい!」」
次々に料理が運ばれて、部屋のテンションもどんどん上がっていく。
その中で、私は。
どうしても気分が乗らない。
なんとなく、イライライライラ。
その原因は、今私から一番遠い席にいる、樫宮くん。
私たちは昨日、ケンカをした。
**********************
―昨日―
久しぶりの一緒の休日、私たちは樫宮くんの部屋で一緒にビデオを見ていた。
本当は、映画館で何か映画を見る予定だったんだけど。
樫宮くんがあまりにも疲れた表情をしていたから、予定変更。
のんびり過ごすことにした。
「ねね、樫宮くん」
「ん?」
「あれ!あれなんて言うんだっけ?この女優さんが少し前に出た、話題になった映画」
「あー…そんなのあったか?」
「あったわよ!ほら、なんかちょっとコメディーみたいな」
「…悪い、見てない」
「そうなの?でも、すっごい話題になったから、絶対知ってると思うの。確かなんかの賞も取ってたし」
「……」
「ほら、あの赤い絨毯の…」
「だから見てないって言ってるだろう?」
その樫宮くんの声は、不機嫌を音にしたような、あまりにもきつい口調で。
私はついむっとしてしまう。
「そんな言い方しなくても」
「…見てない、と言ってるだろう。分からないものは分からない」
「そりゃそうだけど…でも、少しくらい考えてくれたって…」
「考えても思い出せる気がしない。悪いが疲れてるんだ。少し寝かせてくれないか」
そりゃ、最近お仕事が忙しくて、樫宮くんが疲れていたのは知ってたけど。
(でも、久しぶりなのよ?)
私はずっと、この日を楽しみにしていたのに。
不機嫌そうな表情を浮かべたままさっさと目を閉じてしまう樫宮くんを見て、私は考える。
今日だけじゃない。
どうして、樫宮くんはいつも。
会えなくても平気で。
電話もメールも、私からする回数の方が多くて。
余裕で、クールで。
(どうしてなの?なんだか…なんだか私ばっかり、好きみたいじゃない)
そう思ったら、なんだか悲しくなって。
私は眠る樫宮くんを睨み付ける。
「寝たいなら寝てればいいじゃない!」
手元にあった、クッションを樫宮くんめがけて投げつけて。
「もういい、私帰るから。おじゃましました!」
鞄を乱暴につかんで、部屋を出た。
外に出て、しばらく歩いたところで、後ろを振り返る。
(いない…)
…正直な話。
拗ねれば、樫宮くんが追ってきてくれると思った。
怒って出て行けば、クールな樫宮くんだって反省すると思った。
でも、私の後ろには誰もいなくて。
(追ってきてもくれないのね…)
悔しくて、悲しくて寂しくて。
(やっぱり、樫宮くんは私のこと、飽きてきたのかもしれない…)
目の前に涙が盛り上がってくる。
「樫宮くんの…ばか…」
小さく呟いてから、涙をぬぐって帰り道を歩く。
足は重い。
気持ちも重い。
結局、家に着くまでにいつもの倍以上の時間がかかった。
家に帰って、鞄を探る。
せめて。
せめて携帯に、メールや着信の1件も入っているだろうと期待して。
けれど。
(あれ…ない…)
いくら鞄を探しても、携帯が見あたらない。
記憶をたどって、思い出した。
(そっか、樫宮くんの部屋のテーブルの上だ…)
なんだかもう、どうでもよくなる。
取りに戻ることもせず、私は部屋に閉じこもった。
…もしかして、家に電話をくれるかしら。
そんな期待もあったけど、日付が変わる頃には諦めに変わっていた。
もう、ダメなのかしら。
考え出すと眠れなくて。
一睡もしないまま、私は朝を迎えた。
**********************
本当は一緒に来るはずだった同窓会。
携帯もないから、連絡も取れなくて。
結局、来てみたら部屋の端と端。
私も声をかけないし、樫宮くんも同じ。
さっきからちらちら目は合うけど、瞬間にお互いにそらしてしまう。
「作上、何飲む?」
近くの席の男の子が、メニューを差しだしてくれる。
普段はあんまり飲まないけれど、なんだかものすごく飲みたい気分で。
(もう、思いっきり飲んじゃおう…)
そう心に決めて、メニューを見る。
「うーん…じゃあ、巨峰サワーがいいかな」
「おっけー。……すみませーん!巨峰サワー追加」
男の子が手を挙げて、オーダーを追加する。
その声に、樫宮くんが振り返って、ちょっと目が合ったけど。
(なによ…そらされる前にそらしてやるんだから…)
そう思って、私は思いっきりそっぽを向いた。
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