要さんと付き合うようになってから、加速度的に増えているもの。
幸せや、要さんのことを好きって気持ち…はもちろんなんだけど。
いいことばかり、というわけではない。
そう、私を最近悩ませている、嫌がらせ。
ゴージャスでの陰口はまだいいけど、電話や手紙、酷いものだと外出先で直接罵声を浴びせられたりするなんてこともある。
雑誌の取材も、今までは割と良心的なマシな人がほとんどだったけど、最近は悪質な人も出てきた。

何かあったら相談しろよ?
要さんはいつも言ってくれるけど。
なんだかいつも、私ばっかり不満を言っているみたいで気が引けるし。
それに、今のところ実害はない。
だから、ちょっと我慢してればそのうち収まるだろう…なんて、思っていた。

それが、こんなことになるなんて。






【強さと弱さ・1】






今日も、バイト先から帰って、郵便ポストを確認する。
…また来てる。
ダイレクトメールや家族への手紙に紛れた、私宛ての嫌がらせ。
分けてみたら、束になった。気にしないようにしよう、とそれを鞄につっこんで、玄関を開ける。

「ただいまぁ」
「おかえり、明里。早かったのね」
「うん」

お母さんの声に返事を返しながら、さっきの手紙から家族宛のものだけを抜き出してリビングのテーブルに置く

「お母さん、手紙ここ置いておくね」
「あら、ありがとう。あ、さっき薫ちゃんがきたわよ。部屋に上がってもらってるから」
「うん、分かった」

今日はこれから、薫と夕飯を食べに行く約束している。
私は慌てて部屋へ向かった。





部屋の扉を開けると、ベットに座り雑誌をめくっている薫の姿が目に入った。

「薫、ごめん、待たせちゃったよね?」
「んーん、早く着いちゃっただけだよん。バイトお疲れ

時計を見るとまだ5時前。
「夕飯にはまだ早いよね」と、私は鞄を部屋の隅に置くと着ていたコートを脱ぎ、座る。

「ねね、明里、これ見てごらんよ!相変わらず、すごいよね、明里の彼氏」

薫に差し出された雑誌をのぞき込むと、そこには要さんの写真。
その脇には、”抱かれたい男NO.1は今年もこの人!”の文字。

「うわぁ、すごいのね。要さんの人気って…改めてビックリ」
「ホントだよねぇ、こんな人が親友の彼氏だなんて、信じられないわよ」
「…私こそ、信じられないわ…」

記事を読みながら、私はため息をつく。
こうして見てみると、本当に分からない。
なんで、こんなすごい人が、私を選んだのか。
私のどこがいいのか。

「…おーい、明里?どうしたのさ、ため息なんかついちゃって」

ふと我に返ると、目の前で手をひらひらさせる薫が目に入る。

「あ、んーん、なんでもない」
「ホントに?最近明里、ちょっとおかしいよ?なんかあった?」
「えっ、そんなことないわよ」
「そーお?」

なーんかいつも以上にぽやーっとしてない?と薫が続ける。
本当は、嫌がらせが気になって、眠れなかったりするんだけど…。
薫に言ったら、要さんにまで筒抜けかもしれないと思い、言葉を飲み込んだ。

「そんなことないわよ。もう、失礼ねー」
「…ならいんだけどさ。んー、じゃあ、まだ早いけどそろそろ行こうか?あのお店、人気だからあんまり遅いと入れなくなっちゃう」
「そうね、行きましょう」

薫が笑顔になったのを確認して。
私はコートと、さっきの手紙が入ったままの鞄を持って外へ出た。






「あー…寒い!まだ冬だねぇ」
「ホント、外にでると寒いわね…」

繁華街までの道のりを、薫と並んで歩く。
手紙が入ったままの鞄が、イヤに重い。
こういう手紙は、家に置いておくのはもちろんイヤだし、ゴミ箱に捨てると、お母さんが気づいちゃうかもしれない。
だから、いつも処分に困っているのだけど。
最近は、差出人の名前がない手紙は全部、外出先のゴミ箱で捨てることにしている。

「あーかり?着いたよ!!」

気が付くと、私はまたぼっとしていたようで、薫の声で我に返った。

「あっ、ほ、ホントね!まだ混んでなくてよかった。入ろっか」
「…ホント、大丈夫?」

心配そうな薫に笑顔を作って、私たちはお店のドアをくぐった。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2人です」
「かしこまりました、お席へご案内します」

お店の人と薫の後に続いて、私も奥へ向かう。
店内はなかなか人も入っていて、私は緊張する。
…記者の人とか…いないわよね?

「こちらのお席へどうぞ」

きょろきょろしていると、一番奥の席に通されて、私は少しほっとした。

「明里、何にする?」
「そうだなぁ…じゃあ、あさりときのこのスープパスタ。薫は?」
「じゃ、あたしも同じのにしよっかな」

メニューを決めながら、私はお手洗いを探す。
一刻も早く、この手紙を捨ててしまいたい。
窓側にお手洗いの表示を見つけ、私は薫に切り出す。

「ね、薫?ごめん、お手洗い行ってきてもいいかな?」
「うん、おっけー。じゃ、注文しとくね」
薫の言葉に甘えて、私は鞄を持ってお手洗いの方へ向かう。
重い鞄を持って、少し、早歩きで。
でも、やっとたどりついたそこは使用中で、私はなんだか落ち着かないまま、並んで待った。



「あの…アナタ…」



ふと、お手洗いの扉の前。
知らない声の主に声をかけられ、私は身を固めた。

「…はい?」

また、かしら。
イヤな予感をぬぐえないまま、意を決して振り返る。
そこには、私と同じ年くらいの女の子が3人立っていた。

「…やっぱり!アナタ炎樹の…!」

しまった、と思ったときには既に遅くて。
目の前の女の子の表情は、どんどん険しくなっていく。
そのあまりにもただならぬ雰囲気に、私は逃げようと思ったのだけれど。
狭い入り口をふさがれてしまい、私は立ちつくすしかなかった。






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